法務・専門業務におけるAIの利用
イングランド・ウェールズの高等法院合議法廷(Divisional Court)は、弁護士による生成AIツールの実際の利用または利用の疑いに関する事案を審理した。これらの事案では、生成AIツールで作成された法的主張書面や証人陳述書が確認されないまま用いられ、虚偽の情報(典型的には存在しない判例の出典表示や引用文)が裁判所に提出されたという(判決)。
裁判所の指針の内容
- AIツールは事実をでっち上げることがある。 イングランド・ウェールズの司法指針は、AIツールが架空の判例、架空の出典表示、架空の引用文を作り出すことがあり、存在しない法令、論文、法律文書に言及したり、法律について誤った、または誤解を招く情報を示したり、事実誤認を犯したりするおそれがあると警告している(司法指針)。
- 依拠する前に確認する。 AIツールが提供した情報の正確性は、使用または依拠する前に確認しなければならない(司法指針)。
- 責任は利用者にある。 法律専門家である代理人はすべて、裁判所または審判所に提出する資料について責任を負い、それが正確かつ適切であることを確保する職業上の義務を負う。弁護士を付けない当事者も、裁判所に提出する内容について責任を負う(司法指針)。
- 公開のチャットボットに非公開情報を入力しない。 私的な情報、機密情報、まだ公知となっていない情報を、公開のAIチャットボットに入力してはならない。入力した内容は、全世界に公開されたものとみなすべきである(司法指針)。
- チャットボットは法的調査には信頼できない。 合議法廷は、無料で利用できる生成AIツールには信頼できる法的調査を行う能力がなく、存在しない出典を挙げたり、実在する出典に載っていない一節を引用したかのように示したりすることがあると述べた(判決)。
実務上の確認事項
- 信頼できる情報源と照合する。 法廷は、AIを法的調査に用いる者には、政府の法令データベース、国立公文書館の判決データベース、公式判例集など信頼できる情報源に照らして正確性を確認する職業上の義務があると述べた(判決)。
- 警戒すべき兆候に注意する。 司法指針は、AIによって作成された可能性を示す兆候として、聞き覚えのない判例への言及や、(米国のものであることもある)見慣れない出典表示、当該分野の法に関する一般的な理解と合致しない主張などを挙げている(司法指針)。
- 隠しテキストに注意する。 いわゆる「白文字」とは、コンピュータには見えるが人間の読み手には見えないように文書に挿入された、隠しプロンプトや秘匿されたテキストを指す(司法指針)。
- 確認内容を説明できるようにしておく。 指針によると、裁判官は、AIチャットボットの支援で生成された調査結果や判例の出典表示について弁護士が独自に正確性を検証したことの確認を求める必要が生じる場合がある。また、弁護士を付けない当事者がチャットボットで書類を作成した可能性がある場合には、どのような正確性の確認を行ったかを尋ねる必要が生じる場合がある(司法指針)。
出典
- 弁護士による生成AI利用に関する合議法廷の判決。2025年6月6日に国立公文書館への公開により言い渡された。
- Artificial Intelligence (AI) – Judicial Guidance (October 2025)、裁判所・審判所司法部門、2025年10月31日。司法関係者向け指針全文(PDF)。